LGBT初級検定講座を受講した。
遡ること50余年。実家は新宿の隣町、初台駅前の美容室だった。
若い頃に、麹町の本格的な美容院で腕を磨いてきた母は、着付も上手と評判で、店は朝から晩まで賑わっていた。
土地柄か、夕方になると夜の仕事のお客様もみえていた。その中に一人、毎日のようにいらっしゃる若い男性がいた。
この方は、店に入る時は男。出るときは女になる。
まだ小学校に上がる前だったと思うが、幼心に「うちのお客様で一番美しい方」。
そう私は思っていた。
忙しいと私もよくその方の着付の助手をさせられた。客の後ろにまわり、着付で持ち上がらないように着物のすそをおさえる重要な任務だった。
間近で見るその男性の足は毛がいっぱいはえていた。手際よく母が美しい着物でそのすね毛を包んでいく。着付が進むにつれ、美しい女性に生まれ変わっていくその姿を私はいつもドキドキ見つめていた。
黒髪はキリッと結い上げられ、真っ紅な口紅は本当に美しかった。白い帯に白い草履。藍色地に大きな白い蝶が舞う着物。
自信に満ちた横顔はまさに美しい蝶が羽ばたくが如く、粋で、艶やかで、品を備えて美しかった。
LGBT、まだそんな言葉もない時代。私はそんな環境で育った。
一昨年、“好きに変はない展”(日本セクシャルマイノリティ協会主催)に出会った。
調布市男女共同参画推進センターのイベントで、私は「カラー&メイク講座」をさせていただいたのだが、その時、隣の部屋で開催されていたのが
このアート展だった。
様々な“好き”を表現した美しい写真と共に言葉が添えられていた。
そして、この言葉の前で私は動けなくなった。
「いちばん怖い告白は、家族への告白です」
その日以来、その言葉が小骨のように心の隅に刺さったままだった。
しかし、それは私の中で、あの幼い日の感動と母の姿を蘇らせ、心をふつふつと動かしはじめた。
そして今年、私はLGBT検定の存在を知り、やっと受講することができた。
自分の周りにはLGBTの方はいない。そう思ってはいないだろうか?
しかし、LGBTの方の割合は左利きの方と同じだという。
自身がLGBTであることを隠している方が大多数なのだ。
私たちは誰一人同じではない。一人ひとり違う。
そして、身体の性と、心の性と、恋愛の性が生まれながらに違う人も実はたくさんいる。
ならば、その違いのもとにある、持って生まれた独自の個性や魅力、創造性が存分に花開く生き方に目を向けたい。
そして、誰もが、“自分らしく、美しく、楽しく生きる”、その手助けの一つとして、私はLGBTの方にも「カラー&メイク」をお伝えしていきたいと思っている。
自信に満ちた、あの女性(青年)の美しい横顔と母の姿が、今でも忘れられない。
いつか、LGBTという言葉が、本当になくなる社会に向けて、私も活動の輪をもっと拡げていきたい。
